昔は眼が良かった。視力はマサイ族並みだった(うそ)。
でも、小さくて、一重瞼。子供のころからずっと、ぱっちり二重瞼の友達がうらやましくてしょうがなかった。
「なんでこんなに目が小さいのかしら!ハンディキャップだわ!」
優しい夫がなぐさめてくれた。
「ピンホール・カメラって知ってるかい?」
針穴のように小さくても性能が良かった私の眼は40代半ばから、ご多分に漏れず、近くが見え辛くなり、生まれて初めて自分の眼鏡を購入した。
眼鏡・・・中学1年生のころ、学校の図書室のカウンターで本の貸し借りをやってくれる図書係(?)の先輩男子に淡い恋心をもった。彼は、その頃私の周りではまだ珍しかった銀ブチ眼鏡をかけた知的な男性・・・いや、中学2年生だった。
私はドストエフスキーの「罪と罰」だのトルストイの「戦争と平和」だのを、もちろん読みもしないのに借りては返し、その甲斐あってか、先輩男子は、私のことをなんとなく覚えてくれて「またきたね」と涼しい声をかけてくれた。銀ブチ眼鏡の奥の澄んだ瞳が優しかった・・・・。
初めての老眼鏡から早15年ほど経過。近くどころか、遠くも見えなくなってきた。ダイナミックレンジがどんどん狭くなっている。眼鏡の度数を何度も更新。
遠近両用から中近両用、固定焦点のTV用、PC・読書用と、眼鏡代がかさんでいる。
面倒くさい老眼鏡にも、一つだけいいことがある。
凸レンズだから、目が大きくみえるのだ。