寒い朝、キッチンに立って暖かいお湯に手を濡らすと、実家の冬の朝を思い出す。
高校生の私は、朝早く学校に行って自習するのが好きだった。というか、部活で疲れて夜は眠くなってしまうので早朝の教室が唯一のお勉強タイムだった。
朝まだ暗いうちに、起きて台所に行くと、母が背を向けて忙しそうに手を動かしている。早くから起きて私と中学生の弟のお弁当と、朝ごはんを作ってくれている。
時折、「湯沸かし器」のつまみをひねる音に続いて、大した湯量はないけど細い管を通って激しく吹き出すような音が響く。
がっしゃん、ごー、じゃわわわわわ
こうなる前に種火をつける作業もあったっけ。
がっちゃん、がっちゃん、こぉぉぉー
もともと我が家の蛇口からお湯がでる仕組みなんて無くて、流し台の上に邪魔にならないように縦に板を渡し、そこにパロマのガス湯沸かし器を取り付けていた。
冷たい水で顔を洗うのが辛くて・・・いや、その頃のわたしは顔のニキビが重症だったからだ。それで、しっかり洗うために、料理している母の横から洗面器を差し入れ、お湯を入れてもらって洗面台にそろりそろりと運んで使った。少しでもアブラっぽさが取れるように。
湯沸かし器の騒々しい音、青い炎。お味噌汁の匂いに混じった暖かい匂いは、石油ストーブ。
部屋の中に炎はあるけど、不完全燃焼の心配はない。隙間だらけの家に酸素はじゅうぶん補給されていた。
今は毎朝、ヒートポンプで沸かしたお湯のタンクから、蛇口をひねるだけで(あ。ひねることもしないな。レバーを上げるだけで)、さあああっと気持ちのいい軽い音と共にたっぷりのお湯が出てくる。
寒い朝のお湯という贅沢。
何と幸せなことよのう、と昭和の郷愁に浸る。