かぜ・そら・とりのブログ

気ままに、のんびり。

海辺のとても古い家

父の転勤で、海辺の田舎町のえらく古い家に住んだことがある。10歳の頃なので、ほぼ半世紀前の話。

 

海岸から300mほど入った小道沿い、向かって左から、2階建ての主屋、トイレと洗面台がある屋根続きの平屋の離れ、その離れの一番右の端に付け足されたようなお風呂場。瓦は古びて粉を吹いたような黒、外壁には煤けたような板が全面に打ち付けられていた。

 

玄関の引戸を開けて中にはいると土間になっていて、左側の畳の部屋に入るには高い段差があった。木でできた柱や壁や床、どれも黒っぽかった。

畳の部屋に入ってすぐ左側に2階への階段があるのだが、すごく急で1段が50cmほどもあって殆ど手をついて登っていた。2階は天井が低い12畳で私と弟の部屋だった。2段ベッドを横に並べて、夏にはすっぽり蚊帳の中にベッドごと収めて眠った。

一階には6畳の和室が二つ。奥の部屋の突き当たりに仏壇スペース、左側の道に面した方にお縁があった。

 

台所は細長い玄関の土間のつきあたり、トイレは一旦土間に降りてお風呂のほうに進んで右に折れたところ、コンクリートの段を1段上がって扉を開けてもう一段上ったところに和式の便座があった。

 

お風呂は五右衛門風呂だった。釜、つまり丸い器型の鋳鉄製の浴槽がコンクリートで固定されたかたちで、洗い場も土間から一段高かった。(長州風呂、の方が正しいかも)。

土間から火をくべた。燃料はオガライトというオガクズを圧縮した30cmほどの六角柱で真ん中に一本穴が通っているもの。薪を燃やすより 燃焼時間も長かった。

お釜の底の大きさに合わせて作られた円形の底板を、浮いている状態からうまく水平に沈めてお湯に浸かった。道に面した窓は無双窓だった。

 

なぜか「ボロ屋」と思ったことはないが、何しろ古かった。近くの似たような感じの家の庭先に、使われなくなったものなのか、丸めた魚網が置いてあった。あの家も漁師さんが住んでいたのだろうか。

 

古いだけあって、夜になるとベッドの真上の天井にもトイレにもお風呂場にも、私が無防備なところに限って大きな蜘蛛がやたらにいた。本当に恐ろしくて、今考えただけでも震え上がる。長年の彼らの住まいに私たち家族がやってきたのだから仕方ないが。

 

このことを除けば、こんなところに住むのイヤだなと思った記憶はない。初めての転勤で慣れない土地に来た父も、生まれたばかりの下の弟を抱えた母も楽しそうだった。弟も私も、横の小川でカニやザリガニをとったり裏の田んぼでメダカをつかまえてきたり、毎日毎日、潮風の中で遊んだ。

よく考えたら両親はまだ30代と若かった。知らない土地で家族5人、一緒に生きていくエネルギーに満ち溢れていた。

(ちょっとローラ・インガルス・ワイルダー的な・・・)

 

暫くして、同じ町内の別の家に引っ越した。理由は知らない。海岸まで30秒の、少しだけ新しい平屋だった。土間もなく、プロパンガスの普通のお風呂だった。やっぱり無双窓の五右衛門風呂は不便だったのかな。

 

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