狭い庭だけど、大きなシマトネリコの樹がある。
出来立ての人工島でやっていた植木市から買ってきた時には、細い棒のような枝が根元付近で3つに分かれていて高さは60cm程度。「樹」と呼ぶには弱々しい小さな植物だった。
もともとその場所には引っ越してきた時に沙羅の木が植っていた。30歳夫婦の新築の家のシンボルツリーとしてお庭やさんが選んで植えてくれたものだった。薄い黄緑の葉、白い可憐な花がぽつりぽつりと咲くところがお気に入りだったけど、遮ぎるものもない南向きの庭の夏の暑さは彼女には過酷過ぎたのだと思う。数年で枯れてしまった。庭造りの本によると「ナツツバキは強い西日、乾燥に弱い」そうだ。ナツツバキは沙羅の別名。環境に合わなかったのだろう。
その後「この子は丈夫に育つといいね」と言いながら植えたかどうかは忘れたが、彼女(花が咲いたので雌株)は強靭かつ旺盛な成長ぶりで、今では根元の幹は太く、樹高は2階の屋根に届きそうだ。
樹の下から見上げると青空をバックに奇数羽状複葉がしなやかに伸びて美しい。夕陽や夕焼けを背に黒い枝葉のシルエットの重なりも、和室の障子に揺れる葉の影も。
冬にはミカンを置いた餌台を吊り下げメジロを呼び、夏は蝉たちの大合唱に生命の息吹を想う。衣替えの季節には洗濯物が彼女の枝枝に揺れる。
先日、ネットを見ていた夫が声をあげた。
シマトネリコは「庭に植えてはいけない樹」だと言う。曰く、大きくなり過ぎる。剪定したら更に爆発的に大きくなって、手に負えなくなるそうだ。
確かに。昨年、少し上の方を切ったせいか今年は新しい枝が爆発して葉の重なりが厚い。
まあいいさ。今年の夏は、葉の影が濃くて冷んやりした彼女の木陰で冷えたビールを楽しませてもらうよ。